その人らしさ”とは何か――言葉にできない問いに触れた日
『ひとの気持ちが聴こえたら』
ジョン・エルダー・ロビソン著
今年読んだ本の中で、いちばん心を動かされた一冊でした。
(…まだ年末まで少しありますが)
紹介してくれたのは、
鍼灸師・トレーナー・心理士・ランナーとして活躍されている
リライズ鍼灸院の院長・行方悟郎さん。
著者のジョンは、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)を抱えて生きてきた人物。
人の気持ちがまったく理解できないまま、
天才的なエンジニアとして活躍してきたという、
極めてユニークな経歴の持ち主です。
たとえば──
誰かが事故にあって亡くなっても、何も感じない。
文字はただの記号。
音楽はリズムの羅列にしか聞こえない。
誰かの気持ちを感じたことがない。
そんな彼が、ある日、
脳に電気パルスを当てる臨床研究に参加します。
その日を境に、彼の世界が、
モノクロから色彩に変わっていく。
音楽に感情を感じるようになり、
新聞記事がただの事実ではなく
「心を動かす物語」として届くようになった。
そして、人の目の奥に、美しさを見出せるようになった──
その描写は驚くほど繊細で、
読んでいる私まで、
世界が違って見えてくるような気がしました。
「美しい」と思えること、
「悲しい」と感じられること、
人の気持ちが、ちゃんと“伝わる”こと。
それらはすべて、私たちの脳の中で起こる
電気的なつながりによって生まれている。
そんなことに改めて気づかされました。
私は仕事の現場でいつも、
「人はみんな違う」ことを前提にチームづくりをしています。
その違いを受け入れ、力に変えていくことが
チームビルディングの本質だからです。
でも──
あまりにも違うと、社会はそれを「障害」と呼ぶ。
果たしてそれは、本当に「治す」べきことなのか。
ジョンはこの治療によって、
共感や感動のある世界を手に入れました。
けれど同時に、
人の悪意にも気づくようになり、
過去の記憶がつらいものに変わっていった。
やがて夫婦関係も壊れてしまい、
彼はこうつぶやきます。
「自閉症は、自分の心を守る鎧のような存在だった」
人は誰もが価値ある存在であり、
必ずひとつ“ギフト”を持って生まれてくる。
その人らしさとは何なのか。
多様性とは何なのか。
「障害を治す」とは、どういうことなのか。
答えの出ない問いかもしれない。
でも、彼は「変わる」ことを選んだ。
その勇気に、深く心を打たれました。
目には見えない価値を、もう一度見つめなおしたい。
この本は、そんなふうに思わせてくれる一冊です。
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